瓦の基礎知識

洋瓦とは?形状、色、素材、生産地別に解説

ヒトツチ編集部

「瓦」は日本特有のものと思われがちですが、実は西洋でも古くから屋根材として使われています。

日本の瓦を「日本瓦」と呼ぶのに対し、西洋の瓦は「洋瓦」と呼ばれています。

その「洋瓦」ですが、さまざまな種類があるのをご存知でしょうか。

本記事では、洋瓦の特徴や種類を、形状や色、素材、生産地別に解説します。

新築や屋根の葺き替えで、「おしゃれな洋風のデザインにしたい」と洋瓦をご検討されている方は、参考にしてください。

洋瓦とは?明るい色が特徴の西洋伝統の瓦

洋瓦とは、西洋諸国で生産されている瓦のことです。

日本には、古くからある瓦と、明治時代以降に西洋諸国から輸入された瓦があります。

ここでは、日本に古くからある純日本風の瓦を「日本瓦」と呼び、日本瓦と比較しながら、西洋の瓦である「洋瓦」の特徴を見ていきましょう。

まず、色の違いです。

日本瓦の色は、銀色やいぶし色などの比較的落ち着いたものが多く、重厚感が感じられます。

一方、洋瓦の色は、色のバリエーションが豊富にあり、明るくあたたかみのある色が多いのが特徴です。

これらの色の違いは、粘土瓦の焼成方法によるものです。

焼成方法には、酸素不足の状態で焼く「還元焼成」と、空気を十分に供給して焼く「酸化焼成」の2種類があります。

還元焼成で焼くと瓦は灰色になり、酸化焼成で焼くと瓦は赤色になります。

酸化焼成のほうが、還元焼成よりも工程が少なくコストがかからないことから、西洋では古くから酸化焼成が用いられてきたため、赤系の色の瓦が多くなっています。

つぎに、形状の違いです。

日本瓦は、直線形と曲線形を組み合わせた緩やかなカーブを描く形状になっています。

一方、洋瓦は、比較的凹凸の深い丸みを帯びたカーブを描く形状が有名です。

凹凸の深い形状の洋瓦は、瓦と屋根板の間に空間が生まれるため、空気が流れやすくなります。空気が流れると湿気がたまりにくくなるため、瓦の下の屋根板が劣化しにくいことがメリットとして挙げられます。

また、熱が屋根裏に伝わりにくく、屋内の温度上昇をおさえられることも特徴です。

以上、洋瓦の特徴を紹介しました。

次に、洋瓦の種類についてみていきましょう。

洋瓦の種類〜形状による違い

まずは、形状別に洋瓦の種類を紹介します。

主に3つあります。

①:伝統的な半円形の「バレル瓦」
②:スペイン仕様で凹凸のある「S形瓦」
③:フランス仕様でフラット形状の「F形瓦」

それぞれ解説します。

①:伝統的な半円形の「バレル瓦」

古代ローマ時代から、ヨーロッパ南部の地中海地域で使用されていたのが、半円状にカーブした形の「バレル瓦」です。バレル瓦は、スペインではクルバ瓦、フランスではカナル瓦とも呼ばれます。

バレル瓦は瓦1枚に1つの山がある形で、それを表裏交互に重ねる方式で、隙間なく屋根を覆うように施工します。

交互に重ねるという点で、日本の伝統的な「本瓦葺き」と類似していますが、屋根の断面を見ると大きく異なります。
本瓦葺きは丸瓦と平瓦という二種類の瓦を交互に重ねるのに対して、バレル瓦は半円状の一種類の瓦を組み合わせるからです。

南欧の伝統的な建築物の趣を表現したいという場合に、いまでも使われることがあり、断面の見える軒先の部分にだけバレル瓦を配置する事例もあります。

バレル瓦は、時代とともに瓦の形は合理化され、表裏の瓦が一体化した「S形瓦」に変わっていきました。

つぎは「S形瓦」を紹介します。

②:スペイン仕様で凹凸のある「S形瓦」

「S形瓦」は、ヨーロッパの伝統的なバレル瓦を2枚組み合わせて作られた瓦です。凸凹が大きく、丸みを帯びた形状をしています。

「Spanish」(スペインの)の頭文字をとって「S形瓦」と呼ばれます。または、断面がアルファベットのS字のようであることから名付けられたとも言われています。

日本には、大正時代に西洋建築の文化とともに伝わり、日本の風土に合わせて改良され、現在も用いられています。屋根全体が丸みを帯びたかわいらしい雰囲気になり、南欧風の住宅に仕上げることができます。

③:フランス仕様でフラット形状の「F形瓦」

「F形瓦」は、北フランスで用いられてきた、凹凸が少ないフラットな形状の瓦です。
「French」あるいは「Flat」の頭文字をとって「F形瓦」と呼ばれます。

日本には、明治時代初期に輸入され、フランス人のアルフレッド・ジェラールにより横浜で製造が始まりました。その後、日本に合った形に改良され、普及しました。

F形瓦は、凹凸の少ないフラットな形状のため、太陽光パネルの設置に適しています。

ただ、凹凸がないために、空気層ができず、太陽の熱の影響を受けやすいという特徴もあります。

フラットなF形瓦は、シンプルでモダンな雰囲気であるため、屋根全体がすっきりとした印象に仕上がり、和洋折衷どんなデザインの建物にも合わせることができます。

以上、洋瓦の形状の種類を紹介しました。

洋瓦の種類〜デザインや色による違い

洋瓦は、凹凸のある形状のほかに、あたたかい色味が特徴です。

色の使い方には、1つの色を使う「単色」と、複数の色を混ぜ合わせる「混ぜ葺き」という手法があります。

それぞれ解説します。

単色

洋瓦は、赤色、黄色、茶色、アイボリーなど、明るくあたたかみのある色が多いのが特徴です。

単色で仕上げると、経年変化による色褪せ、色ムラが出てきます。

地域によっては、景観保全のため、建物の屋根の色を、古くからある屋根の色と合わせる必要があります。

そのため、はじめから色ムラのある加工をすることもあり、単色で仕上がっている瓦は稀に見られるものとなっています。

混ぜ葺き仕様

「混ぜ葺き」とは、屋根を1つの色で統一するのではなく、複数の色の瓦を混合して使い、屋根に表情を出す工法です。

単調にも派手にもならないよう、瓦の色の比率を考えるのが難しいというデメリットがあります。

そこで、意図的に1枚の瓦に色ムラを焼き付けて作られているのが、「混ぜ葺き仕様」の瓦です。

「混ぜ葺き仕様」の瓦を使うことで、複数の色の瓦を混ぜて葺く「混ぜ葺き」よりも簡単に、程よい色の配合で表情のあるデザインに仕上げることができます。

洋瓦の種類〜素材による違い

つぎは、素材別に洋瓦の種類を紹介します。

主に、以下の3つがあります。

①:粘土瓦
②:セメント瓦
③:金属瓦

①:粘土瓦

「粘土瓦」は、粘土を練って焼いて作られた瓦です。

洋瓦のなかでは粘土瓦が最も普及しています。

粘土瓦は耐久性が高く、寿命は50年程度と言われています。水や熱、防音性、通気性などに優れた、丈夫な屋根材です。

②:セメント瓦

セメント瓦は、石灰岩と水を混合したセメントを主原料に作られています。
表面が塗料によって色付けされているため、色褪せや吸水による劣化が見られ、定期的にメンテナンスを行う必要があります。

セメント瓦の耐用年数は20年〜30年で、塗装によるメンテナンスが10年〜20年に1度必要です。また、重量もあることから、耐震性が低く、現在ではあまり生産されていません。

なお、セメント瓦には、モニエル瓦と呼ばれる軟化コンクリートを主成分とした瓦も含まれます。

モニエル瓦は、「着色スラリー」という着色剤を表面に塗ることで、さまざまな色彩が表現できます。ですがモニエル瓦も、現在ではほとんど生産されていません。

③:金属瓦

金属製の洋瓦も製造されています。
主に使用される金属は、耐久性の高い「ガルバリウム鋼板」です。20〜30年間塗装が不要と言われています。

また、金属瓦は、粘土瓦の約10分の1の重さに軽量化された瓦で、耐震性に優れています。

素材は金属でも、粘土瓦の美しい外観をリアルに再現しているものもあります。
機能性と見た目の美しさを両立できることから、近年人気を集めている屋根材の1つです。

洋瓦の種類〜生産地による違い

洋瓦は、生産される国によって少しずつ違いがあります。

代表的な3ヶ国の瓦を紹介します。

①:天気によって色が変わるスペインの瓦
②:色の使い方が繊細なフランスの瓦
③:落ち着いた色合いのイタリアの瓦

①:天気によって色が変わるスペインの瓦

スペイン産の瓦は、竹を割ったような半円状の形が屋根表面に現れるのが特徴です。

スペインの太陽を浴びた土は、鮮やかな色をしており、その土からできた粘土を素焼きした瓦は、しっかりした色彩でありながら自然な色と質感をもっています。

また、スペインの粘土はきめ細かく、水分を浸透しにくい性質があるため、雨水を弾き、雨漏りがしにくい瓦になります。

さらに、雨が降ると、色が変化するのもスペイン瓦の特徴です。

これは、瓦の製造過程で、瓦を焼く際に起こる酸化現象によるものです。

年数が経過するにつれ、しだいに色の変化は落ち着いていきます。

晴れの日は鮮やかな色、雨の日は少し色褪せたような色というように、天気によって表情を変えるのもスペイン瓦の魅力と言えます。

②:色の使い方が繊細なフランスの瓦

フランス瓦は、南フランスと北フランスで大きく異なります。

まずは、地域ごとに使われている瓦を紹介します。

南フランスでは、スペインと同じように凹凸の深い瓦が多く使用されています。南フランスにある地域の名前から、「プロヴァンス瓦」と呼ばれています。

北フランスでは、凹凸の少ないフラットなF形瓦や、ふた山のM形瓦が使われています。

次に、プロヴァンス瓦の色に着目し、スペイン瓦と比較して解説します。

前提として、フランスには「近隣の屋根と色を揃え、浮かないようにしなければならない」という景観保全に関する法律があります。

建物を新築したり瓦屋根を修繕したりするときには、エイジング加工や色ムラをつけることで経年変化した色褪せを表現しなければなりません。

違和感のないように近隣の屋根と色を合わせる必要があるため、スペイン瓦と比較すると、プロヴァンス瓦は色の使い方が繊細で種類も豊富です。

プロヴァンス瓦には、単色の名前だけでなく、3〜4色を組み合わせた色の瓦にも名前がついており、少しの違いでも細かく種類わけがされています。

例えば、山の名前をもとにした「ヴァントゥ色」(赤色に色ムラをつけた色)、地中海を意味する「メディテラネ色」(ベージュと淡いピンクに黒色の砂)、美しい風景を意味する「ペイサージュ色(オレンジ・イエロー・ダークブラウンのアースカラーを基調としたベースに黒の斑点)というような、色の組み合わせや地域名などをもとにした名前がつけられています。

フランス瓦は、古くからある伝統的な街並みとの調和を大切にした格調高いデザインです。

③:落ち着いた色合いのイタリアの瓦

イタリア瓦は、スペインとフランスの中間的な特徴を持ちます。

フランス瓦と同じように1枚の瓦に数種類の色が焼き付けてあり、複数の色の瓦を混ぜて葺く必要がなく、仕上がりが自然であることが特徴です。

イタリア瓦には、ナポリ近郊の火山から出た土で作られた、「ネープルズイエロー」と呼ばれる黄色の瓦があります。

そのほかにも、茶色、ベージュ、オレンジなどの色が混ざった瓦が見られ、色彩が多いにもかかわらず落ち着いた印象の瓦屋根になります。

洋瓦はあたたかい色味でデザインの種類が豊富

以上、洋瓦の種類を形状、色、素材、生産地別に解説しました。

赤、黄色、オレンジや茶色など、色のバリエーションが多く、あえて色褪せた加工をつけて色ムラを出すのが洋瓦の特徴です。

日本では、ヨーロッパ各国の瓦を輸入して、その外観を模倣した瓦を製造してきました。

ヨーロッパ風のデザインで、日本ならではの自然環境にあった性質や地震や台風などの自然災害に強い機能をつけた防災瓦も開発されています。

株式会社鶴弥は明治20年創業の粘土瓦メーカーです。

自社で防災瓦を使いたい場合、ご相談は下記URLよりお問い合わせください。

https://www.try110.com/

寄稿者
ヒトツチ編集部
ヒトツチ編集部
「ヒトツチ」は株式会社 鶴弥が運営するメディアです。古いと思われがちな瓦という建材について、現代の建築家たちがどのように感じ、どのような活用に取り組んでいるのか。寄稿、インタビュー、トークイベントなどの方法で、瓦についての様々な思考を広く共有していきたいと考えています。
「瓦の基礎知識」のカテゴリー内の記事は、瓦メーカー鶴弥と建築設計者の監修のもと制作されています。
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