石州瓦とは何か?石州瓦の特徴と形状や色による種類を紹介
通常、瓦屋根というと、黒色をイメージするかもしれませんが、山陰地方では「石州瓦」を使用していることにより赤褐色の屋根がよく見られます。山陰地方には、赤い屋根が並ぶ集落があり、海、山や田園風景とも馴染む美しい景色となっています。そんな自然にやさしく調和する石州瓦を、屋根材として使いたいと考えた際に、以下のような疑問をもつ方もいるのではないでしょうか。
「石州瓦は、ほかの地域の瓦とは何が違うのか」
「石州瓦にはどんな種類があるのだろうか」
本記事では、石州瓦の歴史や特徴について、形状や色別にご紹介します。
石州瓦とは?赤瓦が特徴の国内シェア率2位の瓦
石州瓦とは、島根県の西部、石見地方(=石州)で採れる粘土を原料として、島根県太田市、江津市、浜田市、益田市にまたがる地域で製造されている瓦のことをいいます。
石州瓦は、三州瓦(愛知県)、淡路瓦(兵庫県)と並ぶ日本三大瓦の一つで、三州瓦に続いて国内シェア率2位となっています。この地域の粘土は赤褐色が特徴で、世界遺産に指定されている石見銀山周辺の町並みをはじめ、山陰地方では、「赤瓦」を使った屋根がよく見られます。
ヨーロッパの赤瓦とは似ているようで異なる、石州瓦ならではの美しい風景です。石州瓦は赤褐色が有名ですが、銀黒色や黒色の瓦も多く生産され、現在では多様な色の石州瓦が存在しています。また石見地方は、山間部は雪深く、沿岸部は日本海の荒波にさらされ、さらに台風の通り道にもなる、というように東西南北で環境変化が大きいのが特徴の地域です。
この自然の猛威に耐えるため、石州瓦の改良がされてきました。まずは石州瓦の歴史について、詳しく解説します。
石州瓦の歴史は?400年以上続く全国に広がった石州瓦
日本の粘土瓦自体は、約1400年もの歴史を持っています。その長い歴史の中で、瓦は地域ごとに地元の土を使って作られ、地元に根付いた産業へと発展しました。特に、良質な土が取れる地域では、その土地の基幹産業として瓦産業が育まれてきました。石州瓦が生まれたきっかけは約400年前です。江戸時代初期の1619年に、島根県石見藩の浜田城天守閣に葺くために作られました。築城に際して大坂の瓦師甚太郎が招かれ、瓦の製造から施工まで一貫して指導したと言われています。現在でも、島根県西部に位置する江津市は、石州瓦産業の中心地として知られています。石州瓦といえば赤い色味が印象的ですが、製造され始めた江戸時代のときは、まだ赤色ではありませんでした。
赤色の釉薬が発見されたのは、約200年後の寛政年間(1789-1801)です。石見地方で産出される都野津(つのづ)層の粘土を使い、出雲地方から取れる来待石(きまちいし)の粉を釉薬に混ぜて焼き上げると、赤い瓦ができることが分かりました。美しく、寒さに強い赤い石州瓦は、その機能の高さから、国内の様々な地域に広がっていきました。例えば石州瓦は山陰地方以外にも、北九州から筑紫山地北麓にかけての九州北部の集落でも多く見られます。九州は積雪もあり寒冷な地域なので、寒さに強い石州瓦が積極的に使われました。佐賀県の山間部に位置する集落では、大正時代頃、寒さに強い瓦があるという評判を聞いた地主がわざわざ取り寄せて馬で運んできた、という言い伝えがあります。
全国を調べると、北は北海道から、南は佐賀県まで、石州瓦が現存していることがわかっています。明治以降は、朝鮮暗闘や旧満州など、海外地域にも出荷されました。2009年の調査で、韓国の鬱陵島で、韓国製のキムチ用の甕器に混じって、戦前の石見焼の特徴を持つ味噌甕を使用している民家が数件見つかっています。また、中央集落には、大正期の石州瓦を使った民家が数軒残っていることが分かりました。長い歴史に支えられた美しく高機能な石州瓦は、様々な場所で使用されています。
次に、石州瓦はどのような特徴があるのか、詳しく見ていきましょう。
石州瓦の特徴3つ
石州で採れる粘土は、三州瓦や淡路瓦よりも高い1200度で焼くことができ、さまざまな耐性に優れ、とくに吸水しにくく凍害や塩害にも強いことが特徴です。
そのため、山陰地方だけでなく、降雪量の多い寒冷地域でも石州瓦はよく使用されています。
その人気は北陸や東北地方、北海道のみならず、ロシアからも注文がくるほどです。
石州瓦の主な特徴は、以下の3つです。
①:寒さに強い
②:塩害に強い
③:雨に強い
それぞれの特徴を解説します。
①:寒さに強い
瓦に水分が浸入して凍ると、ヒビ割れを起こす「凍害」に繋がります。
対して石州瓦は、高温で焼き締めることによって、瓦が硬くなっており、水分が浸入しづらくなっています。石州瓦を焼く温度は、約1200度です。素焼きの陶器は約1000度であり、この温度差がそのまま強さの違いとなって現れます。
また、高温で焼き上げることにより、水分を残さず気泡も小さくなるため、水分を溜めにくくなります。同時に強度も高くなり、JS規格では屋根材の破壊強度は1.500N以上と決められていますが、石州瓦は2・644N以上の強度を持ちます。
このような特徴から石州瓦は、丈夫で凍害に強い瓦として、寒冷地域でよく使われています。
②:塩害に強い
海に囲まれている日本では、塩風による影響を受けやすい場所が多くあります。
そのような場所の建物は、塩が建材の表面から内部に浸透していき、建物を痛めてしまう可能性があります。例えば金属は潮風ですぐさびてしまいます。海沿いの家においてある配管などはさびていることが多いです。
石州瓦は、高温で焼き上げることにより、硬く、吸水率が極めて低いため、塩害に強いといわれています。
また、石州瓦に使われている石見地方で産出される都野津(つのづ)層の粘土にも、塩害に強い理由があります。塩害は原料粘土に含まれる鉄分が錆びることによって起きます。石州瓦に使われている原料粘土の鉄成分含有量は、他産地に比べ極めて低いため、塩害に非常に強くなります。
③:雨に強い
石州瓦は、風にあおられて下から上がってくる雨水に対し、水の侵入を防ぐための立ち上がり部分である「水返し」を高くするなどの対策をしているため、雨に強い特徴を持っています。
他にも、石州瓦は出雲地方で採れる「来待(きまち)石」から作られた釉薬によって、表面にガラス状のコーティングが施されているため、酸に強い性質があります。
酸性雨の酸は瓦にとって変色の原因となりますが、石州瓦は酸に強いため、変色しにくく、屋根の再塗装の必要がなく、いつまでも美しい外観を保つことが可能です。
また、併せて石州瓦は遮音性にも優れており、強い雨風の音から住まいを保護することもできます。総じて、強い雨にも左右されず、快適な生活を実現できることは、石州瓦の大きな強みです。
以上、石州瓦の主な特徴を3つ解説しました。
では、石州瓦にはどのような種類があるのでしょうか。
今回は、形状別と色別に石州瓦の種類を見ていきましょう。
石州瓦の種類【形状編】
まずは、形状別に紹介します。
石州瓦の形状別の種類は以下の3つです。
①:伝統的な波形の和形瓦「J形瓦」
②:フラット形状の平板瓦「F形瓦」
③:洋風のスパニッシュ瓦「S形瓦」
それぞれ解説します。
①:伝統的な波形の和形瓦「J形瓦」
J形瓦は、「日本の(Japanese)」の頭文字Jをとって名づけられており、伝統的な和のデザインに仕上げることができます。
比較的ゆるやかなカーブを描く曲線形で、波形の断面が美しく、住宅を格調高く際立たせます。
日本の伝統的な瓦屋根の葺き方には「本瓦葺き」と呼ばれるものがあり、平瓦と丸瓦を交互に並べる方法で、現代でも寺院などで使われています。
J形瓦は、「本瓦葺き」で使用する平瓦と丸瓦を、1枚の瓦に結合したデザインで、「引っ掛け桟瓦葺き工法」という方法で施工されます。
②:フラット形状の平板瓦「F形瓦」
F形瓦は、「平らな(Flat)」の頭文字Fをとって名づけられており、屋根面と一体化する平板状のデザインの瓦です。
明治に輸入されたフランス瓦がルーツといわれており、日本の風土に合うように改良され、石州瓦として製造されています。
フラットで洗練された形状になっているので、太陽光発電パネルを設置しやすく、都市部でよく見られる現代的な雰囲気の住宅にも似合う瓦になります。
③:洋風のスパニッシュ瓦「S形瓦」
S形瓦は、「スペインの(Spanish)」の頭文字Sをとって名付けられており、明治時代以降に輸入された「スパニッシュ瓦」から発展した形の瓦です。
伝統的な「スパニッシュ瓦」は上丸瓦と下丸瓦の2ピースなのに対し、「S形瓦」は上丸瓦と下丸瓦の2つを一体化して成型したデザインとなっています。
洋風のS形瓦は、赤土色をはじめとしてブラウン、イエローなどあたたかみのある色合いが特徴で、南欧風の建物の雰囲気を演出したいときに最適です。
形状ごとの種類について、詳細は以下の記事をご覧ください。https://hitotsuchi.media/variety-of-roof-tiles/
以上、形状別に石州瓦の種類を紹介しました。
石州瓦と同じく日本三大瓦として有名な三州瓦は、瓦の製法による分類も可能で、釉薬を使う「釉薬瓦」と釉薬を使わない「無釉薬瓦」に大きく分けられます。
対して石州瓦は、釉薬を使っていることが特徴であり、製法が限られます。
しかし、石州瓦は、もとになる粘土や釉薬の色に特徴があるほか、釉薬によって表面の色を変えることができます。
つぎは、石州瓦の多様な色の種類を紹介します。
石州瓦の種類【色編】
石州瓦にはいくつもの色のラインナップがありますが、主な色としては、以下のように分類されます。
①:銀黒
②:黒
③:赤
④:いぶし
⑤:キマチ
⑥:その他カラー各種
それぞれ紹介していきます。
①:銀黒
和風の日本瓦であるJ形瓦で、もっとも出荷量が多いのが定番色「銀黒」です。
銀黒色の石州瓦は、シャープでスッキリした印象で、和モダンな建物によく合い、品のある輝きがいつまでも続きます。
②:黒
J形瓦の石州瓦の中で、銀黒色のつぎに人気があるのが、漆塗りのような「黒色」です。表面が、ガラスコーティングしたような艶のある輝きが特徴です。
高級感のある和風建築によく使われます。
③:赤
J形瓦で3番目に出荷量が多いのが、石州瓦の特徴とも言われる「赤瓦」です。
石州地域でとれる赤褐色の粘土の色に由来しています。
白壁に赤色の瓦屋根がよく合い、海の青や自然の緑と赤瓦のコントラストは大変美しいです。
④:いぶし
いぶし色は、本来、釉薬を使わずに焼き上げた「いぶし瓦」の色のことですが、石州瓦ではいぶし瓦の雰囲気を釉薬で色をつけて表しています。
落ち着いた銀色で、建物と上品に調和します。
⑤:キマチ
石州の赤瓦文化として名高いのが「キマチ色」です。これは出雲地方で採取した「来待(きまち)石」を使った釉薬によってあらわれる色です。
日光の当たり方によって異なる印象を演出する、あたたかみのある落ち着いた屋根になります。
⑥:その他カラー各種
石州瓦は、釉薬によって色をつけられるため、洋風なS形瓦にあうオレンジ、ブラウン、レッドのほかにグリーンなどもオーダーメイド可能です。ホワイトをベースにブラウンの色をたすなど、洋瓦らしい演出をすることもできます。
以上、石州瓦には、伝統的な「赤瓦」や和風な「銀黒」「黒」などの瓦のほかに、さまざまな色のバリエーションがあることを紹介しました。
ここまで、石州瓦の特徴や種類を解説してきましたが、「いくら耐久性が高くても、近年の地震や台風に耐えられるのか」という疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。そこで認識いただきたいのが、「現在の石州瓦は、ほぼすべて防災瓦である」ということです。
現在の石州瓦は地震や台風に強い「防災瓦」
雨や寒さに強いことが特徴の石州瓦ですが、従来の石州瓦は重量が重く、耐震性が低いという問題がありました。
阪神淡路大震災後にガイドラインが見直され、地震の揺れに耐えられるように屋根を葺く施工方法として「防災瓦」の導入が進みました。
防災瓦とは、瓦と瓦を噛み合わせてロックできる仕組みを備えた瓦です。
現在の石州瓦は、ほぼすべて防災瓦になっており、組み合わせ葺きという工法で瓦をがっちりと重ね合わせているので強風に耐えられるようになっています。
実際、新しい「防災瓦」になっている石州瓦は、阪神淡路大震災レベルの地震にも耐えられることが実験で示されています。
防災瓦に関して、詳細は以下の記事をご覧ください。
石州瓦に見られる鬼瓦やしゃちほこ
石州瓦では、しゃちほこや鬼瓦などの装飾瓦も盛んに作られました。現在でも、広島県で、写真のようにしゃちほこが乗った石州瓦屋根の住宅を見ることができます。
中でも鬼瓦の種類が豊富です。鬼瓦とは、日本式建築物の棟の端に設置される板状の瓦の総称で、主に装飾や厄除け、雨水の侵入を防ぐ役割を担っています。
飛鳥時代、中国大陸から朝鮮半島を経由して伝わった屋根瓦には、特別な意味合いを持った装飾が施されている瓦が含まれていました。その後、その瓦は厄除けの願いを込めた「鬼瓦」と呼ばれるようになり、発展し今日に至ります。
鬼瓦は、魔除けや家内安全、無病息災、災害回避、商売繁盛、子孫繁栄など様々な願いが込められて作られました。そのため意匠も凝っており、鬼の顔をしたものだけでなく、波や雲、七福神、宝珠などさまざまなデザインが見られます。
北海道内最古の小学校である松前の松城小学校にも、石州瓦が使われ、1875年(明治5年)の創建当時の鬼瓦の裏面には「明治九年三月 石見国那賀郡」「浜田城下 生湯住瓦師 垰勝蔵」の文字が読み取れます。
丈夫な石州瓦製の鬼瓦は、150年たっても細部がしっかりと残っています。
石州瓦は耐久性が高い
以上、石州瓦の特徴を解説し、形状別と色別に多様な種類があることを紹介しました。
石州瓦は、古くから石見地域でとれた赤褐色の粘土と、来待石から作られた釉薬によるキマチ色の「赤瓦」が有名で、現在では多様な色が豊富に用意されています。
また、石州瓦は、日本の山間部だけでなく沿岸部でも耐えることができる、雨雪や塩に強い特徴をもち、さらに改良を重ね、現在では地震や台風にも強い防災瓦となっています。
弊社、株式会社鶴弥は明治20年創業の三州瓦の粘土瓦メーカーです。自社で防災瓦を使いたい場合、ご相談は下記URLよりお問い合わせください。
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