瓦の建築考

「川上から川下まで」 ─地域資源を再編集する建築の思想と実践─(アサノコウタ/建築家)

アサノコウタ

「地域資源を活用する」という言葉はすでに多くの場面で使われている。しかし、その内実を問われると、具体的な構造まで語られることは少ない。木材や農産物、観光資源といった言葉が並ぶ一方で、それらがどのように地域の中を流れ、建築や空間として立ち上がっているのかは、曖昧なまま扱われがちである。

建築の立場から地域資源を考えるとき、重要なのは「何を使うか」よりも、「どのように捉えるか」だと、私はこれまでの実践を通して感じてきた。資源を単なる素材として消費するのか、それとも時間や技術、人の関与を内包したストックとして読み替えるのか。その差は、完成した建築の表情だけでなく、地域との関係性そのものを大きく変えてしまう。

本稿では、私自身の15年以上前の修士研究である古民家のリロケーションに関する考察と、福島市で実践した教会建築を通して、「川上から川下まで」という視点が、どのように地域資源と建築を結び直すのかを論じたい。

地域資源をストックとして捉える

島根県の古民家の架構。木材と技術が地域に蓄積されたストックであることを示している。

修士研究では、古民家を単なる保存対象やノスタルジーの象徴としてではなく、「地域に内在するストック型資源」として再定義することを試みた。全国的に空き家が増加し、とりわけ過疎地域では、良質な伝統木造建築が使われないまま放置、あるいは解体されている。古民家には、長い時間をかけて育った木材、仕口や継手に代表される高度な木造技術、地域固有の寸法体系や空間構成が蓄積されている。それにもかかわらず、それらは「使いにくい」「性能が低い」「コストが高い」といった理由から、現代の建築市場から切り離されてきた。

この断絶を生んでいる構造を整理するために用いたのが、「川上/川下」という整理である。川上とは、古民家や木材、瓦といった資源を生み出す地域や産業であり、川下とは、それらを利用し、事業や生活の中で価値として成立させる側である。従来の移築や保存の議論は、文化財的価値や技術継承といった川上側の論理に偏り、川下側が求める性能、法規、コスト、用途との接続が十分に行われてこなかった。

この「川上/川下」という整理は、単なる資源の流通区分ではなく、設計者自身の立ち位置を問い直す視点でもある。建築の設計は、敷地条件や法規への対応として語られがちだが、その手前には、どの資源を、どの段階から引き受けるのかという選択が存在している。川上を見ない設計は、結果として素材を消費するだけの建築になりやすい。一方で、川下を意識しない思想は、現実に使われない理想論に留まってしまう。両者を同時に見渡す視点こそが、「川上から川下まで」という考え方の本質である。

リロケーションという考え方

リロケーションの対象となった島根県の古民家
古民家の再構成のスタディ「外皮で包む」


そこで提示したのが「リロケーション」という考え方である。これは、古民家をそのまま復元・保存するのではなく、躯体や架構といった本質的価値を抽出し、現代の性能や用途に合わせて再設計し、他地域へ移築する手法である。修士研究では、古民家の架構を核としながら、建築としての性能を向上させ、用途に合わせて空間を再構成する外皮を設計した。古民家を現代に合った性能を兼ね備えた建築として成立させるためには、設計手法やプロセスを明確化し、一般化して流通に乗せる必要がある。木材や瓦といった伝統的な建築部材は、解体と再構成が可能であり、地域に蓄積されたストックでもある。リロケーションとは、こうした資源を「残す」ための技術ではなく、川下となる環境を変えることで「再び使われる状態に戻す」ための設計思想だと言える。

実践としての教会建築 ─福島主のあしあとキリスト教会─

福島の山林で伐採した樹木/建築の川上に位置する資源の出発点

こうした理論的背景を基に、修士研究から15年以上が経過した現在、福島市に新築した日本バプテスト連盟のキリスト教会において、別のかたちで実装を試みた。このプロジェクトでは、「地域と共に在る宗教施設でありたい」という理念のもと、「川上から川下まで」を貫く設計思想を建築として具現化している。

本教会は新築建築であるが、あえて地域資源を起点とした設計プロセスを採用している点に特徴がある。既存ストックを活用するだけが地域資源の活用ではなく、どのような資源を、どこから引き受けるのかという姿勢そのものが、建築の在り方を規定すると考えたからである。

福島の山林から切り出された木材は、乾燥・製材を経て構造材となり、礼拝堂の象徴である十字架を形づくっている。十字架は単なる意匠ではなく、柱と梁による構造体そのものとして空間を成立させている。門型フレームを連続させ、十字架に向かって柱幅を段階的に広げる構成は、構造的合理性と宗教的象徴性を重ね合わせる装置となっている。

教会という用途は、地域に長く開かれ、時間をかけて使われ続けることを前提としている。そのため、短期的な効率よりも、素材の来歴や空間の持続性が重視される。門型フレームの反復によって生まれるリズムや、構造体の連なりは、正面の十字架へと意識を導くと同時に、地域の木材がつくり出す空間としての体験を来訪者の身体に刻み込む。

また、礼拝堂の椅子は、地域のCNCルーターを用い、教会員と私の協働で制作された。建築から什器に至るまで、地域資源と人の関与が連続し、完成した空間の背後にあるプロセスが読み取れる。こうした取り組みは、宗教施設という特殊な用途だから成立したものではなく、建築を「地域資源を編集するプロセス」として捉える姿勢そのものに支えられている。

さらに本計画は、コロナ禍において顕在化したウッドショックへの応答としての側面も持っている。輸入木材の供給不安や価格高騰によって、建築の前提そのものが揺らぐ中で、材料調達を外部市場に依存しすぎてきた構造が露わになった。本教会では、地域の山林から木材を調達し、加工・施工に至るまでを可能な限り地域内で完結させることで、供給リスクを抑えつつ、建築の成立条件を足元から組み直している。これは非常時の対症療法ではなく、平時においても持続可能な建築のあり方を示す試みである。社会状況の変化によって偶然浮かび上がった課題に対し、地域資源を起点とした設計が、ひとつの現実的な解答になり得ることを、この教会は静かに示している。

木製門型フレームが連続する礼拝堂内部。構造体そのものが空間の象徴となる。
十字架に向かって柱幅を段階的に広げる構成。椅子はCNCルーターを用いて製作された。

時間を引き受ける建築

地域資源を建築として扱うとき、避けて通れないのが「時間」という要素である。木材や瓦といった建築部材は、完成した瞬間に価値が決まるものではなく、使われ続ける時間の中で、その意味を更新していく。古民家が地域資源として再評価される背景にも、長い時間を経て蓄積された素材の強度や、技術の確かさがある。

現代の建築は、効率や即時性を重視するあまり、時間を切り離して成立してきた側面がある。しかし、地域資源を前提とした建築では、完成は終点ではなく通過点に過ぎない。どのように使われ、どのように直され、どのように引き継がれていくのかまでを含めて、設計の射程に入れる必要がある。

「川上から川下まで」を見渡す視点とは、空間だけでなく時間の流れを引き受ける態度でもある。資源の来歴を理解し、現在の条件に接続し、未来の使い手に委ねる。その連続性を通して、建築は地域の中に位置づけられていく。

地域資源を「構造」として捉える/循環の中に建築を位置づける

地域資源の活用とは、地域にあるものをそのまま使うことではない。地域に内在する資源を読み替え、現代の条件に接続し直し、再び社会の中で流通する状態へと戻すことである。

木材が山林という川上から切り出され、加工され、架構として建築を支える存在であるならば、瓦もまた、地域の土と焼成技術、気候条件、流通の歴史を内包した建築資源である。屋根という建築の最前線で風雨や積雪を受け止める瓦は、その土地の環境への応答の蓄積であり、木材とは異なるかたちで地域と建築を結びつけてきた。

木材も瓦も、単体で完結する素材ではない。重要なのは、それらがどのような構造の中で地域を流れ、どこで意味を変え、どのように使われ続けるかという点にある。「川上から川下まで」という視点は、資源調達から設計、施工、利用に至るまでを一本の思考として捉えるための枠組みである。

建築は、完成した瞬間に終わるものではない。地域資源が時間をかけて蓄積され、再編集され、次の使い手へと手渡されていく循環の中でこそ、その価値は更新され続ける。木材も瓦も、その循環の一部として存在している。建築とは、その流れを束ね、地域と社会のあいだに新たな接続点をつくり出す装置であると捉えられる。

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寄稿者
アサノ コウタ
アサノ コウタ
建築家
1983年福島県福島市生まれ。2009年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。「うつくしま、ふくしま」をモットーに地域環境デザインを試みる建築以下の設計事務所「BHIS」を主宰する。建築設計の領域に留まらず、グラフィックからプロダクトやコミュニティのデザインまで、福島県という地域の中で横断的な取組を行う。近年はデジタルファブリケーション技術を活用した事業や、社会実験団体「FuTU」(Fukushima Tactical Urbanism)のアドバイザーとして若者と共にまちづくりに寄与している。芝浦工業大学/宮城大学、非常勤講師(短期集中講義担当)。
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