瓦の建築考

土が支え、土に還るホップ棚―デジタルファブリケーションと循環する建築以下土が支え、土に還るホップ棚-(アサノコウタ/建築家)

アサノコウタ

ホップを育てる場所をつくる

専修大学の佐藤慶一教授が代表を務めるまちづくりGDX研究センター(MGDX)のプロジェクトに、まちづくりの専門家・建築家として参画し、IoTホップ棚の設計・制作に取り組んでいる。私の役割は、大学の研究チームと協働し、人が植物を育て、地域に関わるための場所を具体的な形にすることである。

このプロジェクトは、川崎市との共同研究「情報技術を活用した自立型グリーンインフラの実装」に位置づけられている。登戸・向ヶ丘遊園地区の空地や公共スペースなどを研究の場として想定し、登戸そだて隊など地域の協力者とともに、緑を育てる活動と資源の循環を継続する仕組みを探っている。

栽培には、センサーなどをインターネットにつなぐIoT(モノのインターネット)を活用している。太陽光パネルを電源として土壌の水分や気温を測り、水やりの状況をLINEで共有する。栽培環境を把握し、地域でホップを育て続ける活動を支える仕組みである。

私が設計した棚では、ホップを植える土をウエイトに利用し、蔓が伸びるための隙間を木製の躯体に設けた。役目を終えた木材はチップ化し、コンポストで堆肥化して、再び植物を育てる土へ戻すことを目指している。ホップを育て、収穫し、ビールをつくって乾杯する。そうした活動に合わせて、素材も地域のなかで循環していく棚を考えた。

植物を育てる土が棚を支える

IoTホップ棚 図面/アクソノメトリック/設置写真

屋外に棚を設置するとき、足元をどう安定させるかは基本的な課題となる。今回着目したのは、ホップを育てるために必要な土の重さである。植栽の土を躯体の足元に組み込み、栽培に必要なものを、そのまま構造物を支えるウエイトとして利用した。

土は水や養分を蓄え、根を張る。同じ土が、重さという別の性質によって棚を支える。木製の躯体はその土を収め、上方へ伸びる蔓を支える。植物を育てる側と支える側が、足元で関係づけられている。この構成では、土の量や配置、水分による重量の変化も設計に関わる。生育の条件と、棚に必要な安定性を一緒に考えることになる。

土の重さは、持ち運ぶ際には負担になるが、設置して使う場面では構造を支える力になる。同じ素材でも、どの役割を与えるかによって意味が変わる。足元にある資源の働きを読み直すことが、この棚の設計の出発点であった。

ホップの土が構造物を支えるウエイトとなる

植物の成長のための余白と人の居場所

植物の成長のための余白を生み出すホップ棚の躯体

躯体は、R形状の開口を持つH型状の部材を縦横に組み合わせ、背面から頭上へと連続させている。奥行きのある背面の格子の手前に横長のベンチを設け、前方の両端には細い柱を置いた。人が出入りする正面は大きく開き、背後と頭上で植物を受け止めながら、座る人の周囲に開放感を残す構成としている。

板の開口や部材同士の隙間は、ホップの蔓が絡み、葉を広げるための余白である。板の厚みと向きを組み合わせることで立体をつくり、植物が通る空間と躯体に必要な強度の両方を考えた。木材が占める部分と、植物に委ねる部分の関係が、この棚の姿を決めている。

組み立てた直後には木製の骨格が見えるが、蔓や葉が広がれば、緑の密度や向こう側の見え方が変わる。植物の最終的な輪郭まで設計時に決めることはできない。躯体が用意するのは、その成長を支え、季節による変化を受け止めるための条件である。

ベンチには、植物の世話をする人だけでなく、通りがかった人も腰掛け、ホップの成長を眺めることができる。植物を育てるための躯体が、人の居場所にもなる。栽培に参加することと、ただそこに座ることのあいだに、まちへの関わり方を開いておきたいと考えた。

ホップ棚のベンチに座り、サッカーグラウンドを眺める様子
(Anker フロンタウン生田に設置したIoTホップ棚)

データを手で組み立てる躯体へ

ShopBotでの切削作業の様子

棚の部材は、CNCルーターのShopBotを用いて加工した。コンピューター上で作成したデータをもとに木材を切削し、開口を含む部材を組み合わせて立体を立ち上げる。デジタルファブリケーションによって、植物の成長の余白を生み出す形を具体化していった。

データ上の輪郭が実際の木材になると、板の厚さや反り、木目の方向、接合部の納まりが関わってくる。画面の中で成立する形を、手で扱い、組み立てられる部材へと調整する必要がある。私は、この設計と実物のあいだを行き来できることに、デジタルファブリケーションの意義を感じている。

切削の際には、板の中に部材をどう配置するかも重要になる。開口を設ければ、その部分の木材が切り離される。部材の形とともに端材の量や形を捉え、別の用途へ回せるかまで考えることで、加工の工程も資源の使い方として見えてくる。来年度に向けては、H型状の部材を切り出す際に生じる円形の端材を、接合部材として活用することを検討している。開口をつくるために取り除いた部分に、今度は躯体をつなぎ、支える役割を与えることで、部材の組み合わせ方や構成の可能性を広げていきたい。

設計データが残ることは、使用後の修繕にもつながりうる。傷んだ部分を交換したり、設置場所や材料に合わせて形を調整したりする際に、データを生かすことができる。どこを機械で加工し、どこを人の手で組み立てるか。その分担を考えることも、つくる人や手入れをする人を含めた設計の一部である。

学生たちのDIYによる組立作業の様子

ビールづくりをまちづくりにつなぐ

このプロジェクトでは、みんなでホップを育て、その収穫をビールにして、みんなで乾杯するという楽しみが共有されている。専修大学の活動では、すでに地域の醸造所と連携したビールづくりが行われてきた。収穫の先に楽しみがあることは、植物を育てる日々の行為を、まちに関わる具体的な理由へとつなぐ。

ホップを植え、水をやり、蔓の伸び方を見守る。その過程には、同じ場所へ繰り返し足を運ぶきっかけがある。日々の成長が話題になれば、それまで接点のなかった人同士にも会話が生まれうる。棚を組み立てる人、植物の世話をする人、ビールのラベルを考える人など、それぞれの得意なことを通して関わる余地もある。

収穫したホップを地域の醸造所に託し、ビールとして味わうとき、水やりをした日や収穫の作業も、一杯を囲む会話につながる。そこで分かち合うのは、その場所で過ごした時間でもある。自分たちが育てたものを誰かと喜び合えることが、次も参加しようと思う動機になりうる。

共同研究では、ビールの販売収益を翌年の栽培やシステムの維持に充てる構想も示されている。1年かけて育てたものを味わう喜びが、その次の年の生育を支える。乾杯したあとに、翌年はどう育てようか、誰を誘おうかという話が生まれる。そうした繰り返しを通じて、ホップ棚が人の集まる場所として育ってほしいと考えている。

棚の役目の先にある土づくり

専修大学生田キャンパス構内に設置したコンポスト(奥)と作業用収納棚(手前)

ホップ棚のもうひとつのテーマが、サーキュラーデザインである。使い続けられるあいだは手入れや修繕を重ね、部材として再使用できるものは次の用途へ引き継ぐ。そのうえで木材としての役目を終えた段階には、チップ化し、コンポストでの堆肥化を経て、植物を育てる土づくりに利用する道筋を考えている。

屋外で使う期間には、必要な強度と耐久性を確保しなければならない。水に触れる部分の納まりや、傷んだ箇所を取り替えられる構成を考える。同時に、使用後に解体し、素材ごとに分けられることも必要になる。使っている時間の性能と、その後の扱いやすさの両方が、材料や接合方法を選ぶ理由になる。

ホップ棚の検証計画では、無垢材、集成材、針葉樹合板を比較対象としている。切削や組み立て、屋外での使用に加え、解体やチップ化までを見渡すためである。ただし、接着剤を含む材料や、塗装・防腐処理を施した木材は、堆肥化への適性を確認する必要がある。木を含む材料を、一律に土へ戻せるわけではない。

共同研究では、栽培残渣と木製什器を現地でチップ化し、堆肥化する仕組みも検討されている。適した木質部分を選び、分解・熟成の時間を経て、次の栽培に利用する。私は設計・制作を担う立場から、素材をその工程へ引き渡しやすい棚の構成を考えたい。

土によって支えられていた棚が、役目を終えたあとには、その土を育てる側に回る。植物を支えた木材が、姿を変えて次の植物の生育に関わる。つくるものの行き先までを設計に含めることで、構造物と自然の関係と時間軸を広げられると考えている。

地域の中で素材の役割をつなぐ

地域で素材を循環させるには、棚の制作だけでなく、手入れや修繕、使い終えた木材の再利用を担う人や場所が必要になる。誰が棚を手入れし、どこで木材をチップにして、できた堆肥を何に使うのか。こうした作業のつながりまで考えることも、設計の一部だと考えている。

ホップ棚のような「建築以下」のスケールには、土の重さを感じ、部材を手に取り、植物の成長を見ながら設計を考え直せる良さがある。大学の研究と地域の実践に、建築家として具体的な形を持ち寄り、使われ方から学んでいく。その過程を共有できれば、棚をつくる活動は、地域で資源を使い続ける方法を考える場にもなる。

足元の土が棚を支え、隙間を多く設けた躯体がホップの成長を受け止める。そこで育ったホップを使ったビールで乾杯した人が、また次の栽培に関わる。そして棚も、いつか土づくりを支える素材へと姿を変える。植物の成長や人の活動、素材の役割が続いていくところまでを、設計として考えていきたい。

向ヶ丘遊園駅前に実験的に設置されたIoTホップ棚(年内に解体予定)

専修大学まちづくりGDXラボ
https://www.instagram.com/senshu_mgdx/

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寄稿者
アサノ コウタ
アサノ コウタ
建築家
1983年福島県福島市生まれ。2009年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。「うつくしま、ふくしま」をモットーに地域環境デザインを試みる建築以下の設計事務所「BHIS」を主宰する。建築設計の領域に留まらず、グラフィックからプロダクトやコミュニティのデザインまで、福島県という地域の中で横断的な取組を行う。近年はデジタルファブリケーション技術を活用した事業や、社会実験団体「FuTU」(Fukushima Tactical Urbanism)のアドバイザーとして若者と共にまちづくりに寄与している。芝浦工業大学/宮城大学、非常勤講師(短期集中講義担当)。
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