古民家住み設計者が、改めて「瓦」の今と可能性を知る工場見学(田代彩子/建築家)
「古民家住み設計者が、改めて「瓦」の今と可能性を知る工場見学」
私が生まれ育った北陸地方は、瓦葺きの住宅が多く、幼い頃から瓦屋根は見慣れた光景でした。しかし建築設計を仕事にしながらも、瓦の深い知識を持ち合わせているとは言い難く、どこか遠い存在だった「瓦」。ヒトツチさんでの執筆を通じて知識を深めてきた私にとって、今回の鶴弥さんの工場見学は、点と線がつながるような、待ちに待った機会でした。また古民家の我が家の屋根の今後についても沢山のヒントを得られる工場見学となりました。
工場に到着してまず圧倒されたのは、見渡す限りに積み上げられた瓦のパレット群です。まるで瓦のパレットが一つの「街区」を形成しているかのようで、その圧倒的な物量に「さすが業界最大手の鶴弥さん」と感じました。しかし、それは単なる在庫の山ではなく、徹底した受注生産体制に基づいた活気ある風景なのだと知り、その合理性に納得しました。
鶴弥さんの久保さん、渡邊さんにご案内頂いたショールームでは、瓦の基礎知識を学べ、瓦のラインナップや、陶板を見ることができました。特に鶴弥さんの主力商品である「防災瓦」については、従来の土葺工法と、軽量化された防災瓦の引掛桟葺き工法の違いを知ることができます。また瓦同士を固定する「スーパーロック工法」により、地震の揺れにも、昨今の大型台風でも瓦が脱落したり飛散しないことが分かります。「『瓦=地震に弱い』という固定観念が、実は工法の違いによる誤解であることを再認識しました。




ショールーム内の実物大の屋根模型も見させて頂きました。普段、屋根の上を間近で見る機会は早々ありません。例えば、平板瓦の「スーパートライ」シリーズでは袖部分に専用の瓦を被せますが、和瓦では袖瓦そのものが納まりを完結させているなど、ディテールの違いが手に取るようにわかります。平板瓦と和瓦の棟の形も違います。私は古民家に住んでいるので、伝統的な和瓦の納まりが気になります。和瓦は棟瓦を何段も積んであり、昔は格式高いお家ほど高く積んだそうです。和瓦には軒先瓦も万十軒や、真一文字軒など多種あり、どの軒先瓦を選ぶかによっても見栄えが違ってきます。我が家は真一文字軒や、唐草模様が彫られた軒があります。

いよいよ瓦が「何から、どう作られているのか」を探るべく、製造工場へと足を進めました。写真は瓦の原料である土です。大量の土を前にして、瓦は本当に土から出来ているのだと改めて実感しました。工作の粘土のような柔らかさと粘り気がありました。






写真は瓦の製造過程順になっています。土が伸ばされ、長い板上になり、切断、プレスされて行きます。プレス段階のまだ瓦になりきっていない土は、グニャリと柔らかく曲がります。その後24時間の乾燥を経て、釉薬塗布工程へ進んでいきます。その塗布工程の光景が、まるでチョコレートの海に瓦がダイブしていくようにも見えたり、一定の間隔でリズムよく進み、進化していく姿を見ていると、瓦一枚一枚が意思を持って生きているようにも思えました。最終工程の焼成窯へと向かう頃には、いつしか心の中で、「立派な瓦になるんだよ」と送り出している自分がいました。オートメーション化の技術的な凄みと、ものづくりの温かさが共存する、印象的な瞬間でした。均一に焼き上がった瓦は鶴弥さんの技術者の方々によって、しっかり検品され、立派に送り出されていきました。
見学の締めくくりの鶴弥さんの技術者の方々との意見交換では、窯変(ようへん)釉薬が生み出す予期せぬ表情の豊かさに改めて魅了されました。その表情は、和や洋に限らず、デザインの幅が広いことも新しい気付きでした。かいらぎ釉薬の屋根を自邸で作ったというお話など、実験的な試みにもとても心がワクワクしました。机上でカタログを眺めるだけでは到達できない「身体感覚としての学び」。作り手の熱量に直接触れたことで、私の中の瓦に対する解像度がぐっと引き上げられたように感じます。
工場見学にお招き頂き時間を作って説明してくださった鶴弥さんのスタッフの皆さん本当に貴重な体験をありがとうございました。また工場見学を企画してくださったIEDIAの黒川さん、舞さん、工場見学ご一緒させて頂いた建築家の御手洗さん、武田さん、正田さん、多くの学びと刺激をありがとうございました。
最後に築200年古民家の我が家にも触れたいと思います。我が家は昔ながらの土葺工法で瓦が葺かれています。令和6年の能登半島地震では幸いにも被害がありませんでしたが、いずれは葺き替えたいと考えています。鶴弥さんの工場生産の均一的な瓦を見て、我が家の屋根は人の手で焼かれた瓦のため、不均一さや色の濃淡があるのだと気付きました。その風情も古民家住民としては愛おしいものですが、伝統を守りつつ防災瓦で軽量化を図るのか、あるいは伝統に縛られない「新しい古民家の屋根」を模索するのか。今回の見学を経て、鶴弥さんと共にそんな実験的な試みができたら……と、未来の屋根に思いを馳せる、刺激に満ちた一日となりました。



