瓦が「街の風景」になるとき──淡路島が育む、いぶし銀の連なり(高石愛梨/慶應義塾大学 細谷浩美研究室)
淡路瓦の活用の場は、近年大きく広がっている。伝統的な和風建築にとどまらず、洋風建築やモダン建築に取り入れられ、屋根材以外にも壁面や内装への応用がなされるようになった。また、体験施設での粘土彫刻ワークショップといった、建材以外の形で瓦の魅力を伝える試みも増えている。こうした新しい活用方法は、瓦産業の裾野を広げるだけでなく、瓦という素材を次の世代へ継承していくうえでも重要な役割を果たしている。
こうした取り組みによって瓦との接点が増える今、その魅力をさらに引き出す視点を探ってみたい。ある淡路島の職人は、瓦の甍(いらか)の波が生み出す落ち着いた情感について、街の中に瓦を使った建物が点在しているだけでは、その魅力は十分に伝わらないという。街全体を俯瞰したときに現れる「瓦屋根の風景」が実現してこそ最大限に発揮されると語っていた。瓦屋根の建物が1棟だけあっても、周囲がフラットな屋根ばかりでは景観としての力は生まれにくい。瓦屋根が通り一帯に連なることで、その土地固有の空気感が形成され、訪れる人が「また来たい」と思える魅力的な場所へと発展していく可能性がある。
実際に、京都のように寺社や町家が多く残る地域では、街全体をとおして建物に瓦が使われていることで、訪れる人の心を落ち着かせる景観が形成されている。淡路島という国内有数の瓦の産地にも、そうした「瓦の通り」と呼べる景観を育てる余地が残されているのではないだろうか。瓦屋根の連なる街並みを歩き、その土地の歴史や産業を肌で感じる。そのような場所としてこの産地を再生していくことが、淡路瓦の新たな価値創出につながると考える。

淡路瓦特有のいぶし銀の色合いは、晴れの日と雨の日、朝と夕方で少しずつ異なる表情を見せる。強く光を反射するわけではないが、柔らかく光を受け止めることで、一帯に落ち着いた陰影を生み出している。瓦屋根が連なる通りを歩いていると、視線は自然と奥へ抜けていき、同時に気持ちも穏やかになっていく。甍の波が繰り返されることで、街全体にゆるやかなリズムが生まれ、この土地ならではの景観を形成している。
このように考えると、淡路瓦は単なる建材ではなく、人の感覚や滞在体験に作用する素材だといえる。この場所で過ごす時間の質にも少なからず影響を与えているのではないだろうか。
また、淡路瓦という素材そのものにも、時間の積み重なりが表れているようだ。瓦は土から生まれ、焼かれ、屋根となり、長い年月をかけて街の景観へと広がっていく。塗装された工業製品とは異なり、いぶし瓦は経年変化によって少しずつ表情を深めていく素材である。新しい瓦であっても、どこか昔からそこに存在していたような落ち着きを感じさせるのは、その素材自体が時間の積み重なりを感じさせる性質を持っているからだろう。
400年という長い時間をかけて築かれてきた淡路瓦の景観を、この地の人々はこれからどのように次の世代へつないでいくのか。それは単なる産業継承ではない。人が心地よいと感じる風景や、時間の流れを実感できる空間を守り、育んでいく営みでもある。淡路瓦の未来は、淡路島という風土と文化の継承と深く結びついているのだ。

