瓦の建築考

土と街の交差点を追う、つめたび日記 後編(内野未唯/株式会社 Social&Cultural代表)

内野未唯

土と街の交差点を追う、つめたび日記 後編

土は掘れば掘るほど面白いに違いない––––。
そんな好奇心から、都市や街の記憶を辿る手段として、物理的にも概念的にも土を“掘る”こと。そして、土を慈しみ、愛で、土地の記憶を興し楽しむ旅をすること。それが、つめたび日記の趣旨となります。(つめたび:土(つち)を愛(め)でる旅(たび))

研究者と起業家の違いってなんだっけ?

本題に入る前に、ヒトツチでは私は起業家として紹介をしていただいてますが、改めて研究者と起業家の違いとはなんでしょうか。これは最近の私自身の問いでもあります。
それぞれ重なる点も多く、皆が皆そうとは言いませんが、今の私は、下の2つの軸でざっくりと分類ができるのではないかと考えています。

❶社会への関わり方:「机上(理論)」と「現場(感覚)」
❷社会に対する役割:「地球、社会の進歩・発見」と「社会・誰かに向けた価値創造」

つめたび日記では、できるだけ現場や感覚を大切にし、社会に向けた新しい価値なるものの発見・再定義をテーマに情報・文章を届けることを目的としながら、都市を歩いていきたいと思っています。(かなり壮大な言い回りになってしまいましたが、ゆるゆると。)

渋谷の土からも焼き物って作れる?

これは、本記事の寄稿にあたり「渋谷の土」をテーマに友人と話をしてたときに、友人が呟いていた問いです。
前回の中編では、「都市は土に還るのか?」と、都市と土の接点を考えてみましたが、今回は“現代都市の土”にもっと焦点を当ててみたいと思っています。
いわゆるコンクリートの下にある土は、ちゃんとした土なのでしょうか。そもそも、ちゃんとした土ってなんでしょうか。
そこで頭によぎったのが「みみず」です。みみずは土づくりには欠かせない生き物であり(腐食度を食べ、分解し、土に微生物や液肥と共に排出するまさに土づくりの主)、日本のちゃんとした土と密接に関わっています。後編最後の渋谷歩きでは、ミミズ掘りも加えて歩いてみようと思います。

●Tokyo・Shibuya
本日のスタート地点は宮下パークから。
「渋谷の中心地の土」としてパッと思いつくのは宮下パークの5階に設置された公園。まずは向かいます。
余談ですが、開業当初はコロナ禍ということもあり穏やかな風が吹いていた宮下パークでしたが、最近はとても人気みたいで、多くの若い人で賑わっていました。(かなり密度高め)

ファッション・食・イベント・会社…と機能や情報の集積地の側面を持つ渋谷ですが、その中で宮下パークは若者にとっては目的なくふらっと行ける稀有な空間なのかな、という印象を持ちました。渋谷に空いた、ある種の風穴、公園という名の白いキャンバスがそこに置いてあるように感じます。

そんな中ですが、今回はスコップも持参したので早速土を掘ってみました。

記念すべき初渋谷の土掘り。結論から言うと、かなり硬かったです。
宮下パークの土は踏み固められていたのか、力を入れてやっと少し刺さるというくらいカチカチで衝撃的でした。ちょっと耕して退散。
なかなか生物の生息は難しそうな土でしたが、その人工さがまた人が集まる公園であることに繋がっているのかもしれません。情報の少ない端正な公園は“友達とダラダラする公園”に適していると思います。

土の色:焦茶

土の硬さ:カチカチ
土の匂い:なし
生物:なし

宮下パークを出て表参道方面へ進むと、山手線沿いの公園(広場)がありました。日陰で、緑が茂っていて、土を掘り返すと、ちゃんと柔らかくてしっかり大量のミミズがいました。とても嬉しい気持ちになりました。



土の色:焦茶
土の硬さ:サクサク
土の匂い:湿ってる感
生物:ミミズ、ダンゴムシ、蟻

(ハラカド)

そのまま明治神宮前駅エリアまで出ました。
1920年に出来た明治神宮ですが、それが建つ前の様子が明治神宮の公式HPに載っています。https://www.meijijingu.or.jp/midokoro/

こちらを見ると、すごい変化にびっくりします。ものの100年前は、沿線沿いには何もなかったことがわかります。初詣の参拝者数は建設をされた当初からずっと上位で、1970年のタイミングからは現在までずっと一位を誇っています。渋谷は様々な背景をもとに物凄い勢いで発展をしてきた象徴的な街ですが、明治神宮は現代の都市における象徴的な神社と言えます。

道路にある縁石沿いの土が良さそうだったので掘ってみることにしました。土自体は掘りやすく、サクサクと進んだのですが、なぜかみみずや、ダンゴムシ一匹すら見当たらず、これは意外でした。防虫剤が撒かれているのでしょうか。



土の色:焦茶
土の硬さ:サクサク
土の匂い:なし
生物:なし



公園通り、神南エリアを通って帰ります。このエリアはそもそも土があまりなかったのですが(樹木の周りもしっかりコンクリで埋められています。)そんな中で、一箇所だけ周りがコンクリで埋められてない木があり、早速掘ってみることに。

木の枯葉が腐葉土になり、ふわふわとした土が溜まっていました。感覚的な話になってしまいますが、ここの土が最も柔らかくて、いい色をしているように感じます。そして、ミミズも見つけることができました。まだ赤ちゃんなのか全長3cmくらいの小さく細い子を2匹みかけました。何度も繰り返していると、なんとなくミミズがいる土か、そうでないかが直感でわかるようになってきました。

とてもいい色。いかにもやわらかく、栄養がありそうな土。

土の色:茶色
土の硬さ:ふさふさ
土の匂い:なし
生物:ミミズ、ダンゴムシ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回改めて感じたのは、渋谷に設置されている土は「人のための土」であるということです。ミミズは常に土を作る生き物ですが、そういった地球・生態系のためではなく、私たちが心地よいと感じる環境をつくるための土です。
文明が栄える経過で人は、自然と共に生きる選択をしてきました。その過程で、器や瓦というものが生まれてきました。しかし現代において私たちは、地球上の資源を活用し、技術の力で“人のための空間”を成熟させ、「自然」も支配下の対象にあります。

だからこそ、現代の都市である渋谷の土から、瓦や器を作ることができるのか?作れる土は存在するのか?作ったらどんなものなのか?という問いは、個人的にとても興味深いですし、挑戦してみたいことでもあります。

さて、都市の中で土を“掘る”ことには都市と自然の関係を再考するヒントが多く詰まっているのではないでしょうか。これからも物理的にも、概念的にも街を掘り返すような旅を続けていきたいと思います。またつめたび日記でお会いしましょう!

Thanks―快く渋谷でのミミズ掘りに協力してくれたお二人
小泉志信さん
池原流花さん




そのほかにも土を掘ってみたところ
・ハチ公像の横


・鍋島松濤公園

寄稿者
内野 未唯
内野 未唯
起業家・株式会社 Social&Cultural 代表
東京都市大学(旧武蔵工業大学)都市生活学部 休学中。溢れ出る探究心から、人生という名の「旅」を送っている。 渋谷の円山町に魅了され、地域を盛り上げる活動や、ラブホテルを舞台にした書籍の制作、訪日観光客向けAI観光サイネージの開発などに取り組んでいる。 2023年、地域・文化・人間らしさをテーマに、豊かな社会に貢献する株式会社Social&Cultural を設立し、地域文化、イベント、展示会のプロデュース・企画・デザイン・PR・DXを幅広く手掛ける。
Social&Cultural
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