瓦の建築考

フードスケープ考 Vol.2 エネルギー(森田敦郎/人類学者×正田智樹/建築家)

ShodaTomoki

2-1. エネルギーを可視化する試み -都市エコロジー観測所-

今回は森田敦郎(人類学者)と正田智樹(建築家)の対談となります。

森田 敦郎

大阪大学人間科学研究科人類学研究室教授、大阪大学フォーサイトで取締役およびリサーチ技法の講師。

科学技術の人類学を専門とし、専門は、大規模技術システムであるインフラストラクチャーと環境の関係についての研究。現在は、気候変動と日常生活をエネルギーや物流のインフラストラクチャーがどのように媒介しているのかを研究している。また、インフラストラクチャーと社会の関係を作り替える手法としてのデザイン人類学の研究も行なっている。

都市エコロジー観測所

正田
本日はよろしくお願いいたします。森田先生とお話しさせていただく経緯としては2- 3年前に竹中工務店に来ていただき、建築家の西澤俊理さんと鼎談した際に、フードスケープの話をしました。その際に、「これはエネルギーの風景だと思います」と言っていただき、その言葉がすごく印象的でした。本日はそれについて詳しく議論ができればと思っております。

まずは、森田先生が普段考えられていること、以前お伺いした京都のBridge Studioの都市エコロジー観測所1のご紹介から始めていただければと思います。

森田
よろしくお願いします。
私の研究の専門はインフラストラクチャー、大規模な技術システムと社会、環境の関係で、もともとはタイで灌漑や水管理システムの研究をしていました。ただ、気候変動が激しくなる中、日本のような排出量の大きな国で、どうやって二酸化炭素の排出を減らして、トランジションしていくかを考えるようになってきました。今は日本で、市民の立場からエネルギーとか環境をどう考えられるのか、エネルギーを単に消費するだけでなく、市民がコントロールできるようになり得るのかを研究しています。

その流れの中で、いろんな活動をしている人たちとコラボレーションをしています。京都ではそういう人たちが多く、主に3人の方とコラボレーションをして研究をしています。

1人目は、一般社団法人パースペクティブ2で、京都京北で工藝と森をつなぐ活動をしている高室幸子さんです。京北は、京都に木材を切り出すために開発された森林資源の採集地です。京北での林業と京都の町の建設は密接に関係してきました。京北で伐採された木材はいかだに組まれて桂川に流され、京都まで運ばれていました。高室さんとは、このような流域規模で、後背地の森林と都市の関係を一緒にリサーチしてきました。また、一般の方が参加するツアーやイベントをオーガナイズしています。正田さんの研究と一番近いのはその辺かなと思うんですが、木材を通した京都と後背地の関係を見ていくと、エネルギーがすごく大きな役割を果たしているのがわかります。元々は川のエネルギーが運搬の力だったので、まさに川という運動エネルギーの流れを使って木材を運んでいましたまた、もっと京都市に近いエリアの落葉広葉樹の植生のところでは都市のエネルギー源となる薪と炭を生産するために資源採取が行われていました。このように植生とエネルギーの関係が密接だったんですね。今はかつての薪炭林は放置されていたり、放置される直前にかなり強引に杉の植林がされ、それがそのまま放置されてしまっています。その中には、落葉広葉樹が育ちすぎてちょっと中に入れないようなすごいもさもさの植生になっているところもあります。エネルギー源が木から化石燃料にシフトしたことによって、植生が激しく変わってしまったんですね。このように、環境変化とエネルギーの関係は非常に密接です。

植生が激しく変わってしまった京都市近郊の森

正田
必要なエネルギーが変化すると、その背景でエネルギー源をつくりだす必要がなくなるため、環境が変わってしまうということですね。

森田
エネルギーがどこから来るかということと、都市と環境の関係や都市のあり方は、ものすごく密接につながっていますね。

2人目の協力者は一般社団法人for Cities3の杉田真理子さんで、3人目はエネルギーと環境の専門家である、ひのでやエコライフ研究所4の山見拓さんです。山見さんはメイカーとして何でもつくれる方で、技術の面から環境を考えるという活動をされていて、省エネのコンサルタントをされている方です。

3名と一緒に都市エコロジー観測所をつくりました。都市を取り巻く水の流れ、マテリアル素材の流れ、それからエネルギーの流れを、市民の視点から観測して可視化して、自分たちと環境の関係を考えていこうという団体です。

都市エコロジー観測所

京北の森は、木が使われなくなり荒廃し始めているのですが、そうなった背景にはエネルギーインテンシブなコンクリートや、近代的な素材が使われるようになり、建築そのものがシフトしたということがあります。その中で資源やものの流れも大きく変わりました。かつては(全国的な木材流通もあったのですが)流域内の資源を流域内で使うことが中心でした。今は化石燃料は海外から、コンクリートの石灰岩は大分県や四国の鉱山からなど、広範囲にわたる物流が登場しています。流域の中での資源の生産に携わる地域の人たちもどんどん減っていき、結果として周りの環境も変わってきました。さらに、後背地の植生だけではなく、都市自体も激しく変化しました。例えばコンクリートは熱を吸収しやすく発散しやすいので、都市の熱環境も大きく変わり、ヒートアイランド現象が起こるようになりました。また、木造の古い住宅が潰されマンションになると、庭の木も切られて都市の中の緑地もなくなり、どんどん都市が暑くなっていく。その暑さを感じないために、さらにエネルギーを使い、電気を使い、エアコンをかけるという悪循環が生じているように見えます。こうしたエネルギーを軸とした、都市環境の大きな変化があると考え、まずは、生活者の視点でエネルギーを見える化したい、そういう考えで観測所の活動をしています。

正田
“市民の立場からエネルギーをコントロールできるように”という言葉がすごく印象的だと思いました。自分たちでエネルギーをコントロールするというのは具体的にどういったことなのでしょうか。エネルギーの流れを可視化する目的は、まず何に依存しているか、そしてなぜそのように変化してしまったかを明確にするということでしょうか。

森田
そうですね。そのあたりは、ひのでやエコライフ研究所の皆さんがずっとやってこられたことです。都市の生活だと、電気にしろガスにしろスイッチをひねればいくらでも供給されるので、どれだけ使っているかという認識がなくなってしまいます。一方、例えば貯水池の水を使う場合ですと、使った分だけ貯水池の水位は目に見えて減ります。そのため、合理的に使おうとか、計画的に使おうと考えることが可能です。これに対して、近代都市のエネルギーは見えないわけです。貯水池の水を使うようにエネルギーを合理的に使えるようにするためにはエネルギーを見える化していくことが必要かなと考えています。それから社会科学的な視点からすると、エネルギーを介したつながりというのは、従来の行政や地域のまとまりとは全然広がりを持っています。しかし、それは研究者もあんまりよく分かっていません。北陸の原子力発電所や、大阪湾岸の火力発電所と高圧電線でつながっているわけですけど、そういう意味では、エネルギーを介した技術的、社会的なつながりは特異な形で広がっています。既存の社会科学はそのつながりを見ていないので、エネルギーが生み出すつながりや社会性をあぶり出す研究は、すごく面白いテーマかなと思っています。

エネルギーウォーク:チームでまちあるきを行い、電柱、電線、変電設備、太陽光パネル、天然ガスの設備、電気自動車、水路など、エネルギー・インフラになりうるものもすべて白地図にマッピングしていく試み

正田
そう思います。最終的には都市の見えなくなったエネルギーを見える化し、それを市民の方がどうやってコントロールできるようにするのかが、少しまだ想像がついていないです。

森田
1つはやはり我々のエネルギーについての感覚や知識がすごく鈍っているので、例えば暖房に関しても、その建築の性質と適切な暖房の違い、あとは既存の建物でも断熱できるので、暖房効率を上げられるなど、ちょっとしたことを全然知らないですよね。それから、エネルギー消費の場が手元の携帯から家庭、職場から離れ、データセンターとか、本当に利用者がコントロールできないところに移りつつあるわけです。このZoomもデータ処理はデータセンターでやっているので、サービスのエネルギー消費を職場とか家庭じゃないところでやる。AIもそうだし、そういう意味では人々とエネルギーの関係はどんどん切り離されているので、そのことについての批判的な知見や、考え方を育んでいくことが必要かなと思っています。

正田
それをコントロールしていくような実践はすでにやられていますか。

森田
一つは古典的ですが、省エネですよね。特に冷暖房に関して。熱の流れを意識して、効果的に断熱することによって、電気とか石油の使用量を減らしていく。観測所の方では自分の実感を伴って、例えば熱はどういうとこからどういうふうに出てくるかを見ていく。熱の伝わり方には放射・伝導・対流と3つのモードがあり、それらが組み合わさることで実は建物内の熱の分布は結構激しく違うことがあります。例えば、古い和風の家を対流で温めると、温かい空気が上がり、天井の隙間から空気が抜けて気圧が下がるので、下から冷たい空気を吸い込んで、むしろ足元が冷える。そうしたことを実験して可視化して、ヒーターやエアコンというのが、単に部屋を温めるだけではなく、空気の流れを変えることを通して複雑な効果をもたらすことを学ぼうとしています。一方で、火鉢や昔ながらのストーブは空気の流れを起こさないで、じんわり部屋が温まる。

Bridge Studioでの断熱ワークショップ:気密性能の有無によって、町家の中での「対流」と「放射」による暖房効果にどのような違いが出るかを比較

正田
体を温めること一つとっても、エアコンを使うのと炉に火を灯すことだと、また全然違う温まり方がありますが、現代だと大半の家ではエアコンを使用している。そうしたサービスによって均一化されたモノを、まずは自分の環境に合わせて使い分けられるようにしていくということですね。

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フードスケープ考 Vol.1 素材(正田智樹/建築家)
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【出典・参考文献一覧】

  1. 都市エコロジー観測所 ↩︎
  2. 一般社団法人パースペクティブ ↩︎
  3. 一般社団法人for Cities ↩︎
  4. ひのでやエコライフ研究所 ↩︎
寄稿者
正田智樹
正田智樹
建築家
1990年千葉県生まれ。幼少期から青年期にかけてフランス、インドネシア、中国、ベルギーで生活し、多様な文化や環境に触れる。2014年東京工業大学工学部建築学科卒業。2016-2017年ミラノ工科大学、2017年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻を修了。在学中に日本各地の伝統的なものづくりの工房やイタリアの伝統食の生産の現場を調査。2018年-2025年竹中工務店設計部にてオフィスビルや劇場、展覧会の設計に携わり、グッドデザイン賞、ウッドデザイン賞、JID賞、空間デザイン賞など受賞。2026年独立、東京科学大学大学院博士課程在籍。人々の暮らしや食文化を基点に建築を設計する。著書にイタリアと日本の伝統食と建築、風景を描いた『Foodscape フードスケープ–図解 食がつくる建築と風景』がある。
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