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建築設計者による「鶴弥の瓦工場 見学レポート」

ヒトツチ編集部

 瓦の現在地を知る──鶴弥工場見学で見えた、素材とものづくりの可能性

愛知県にある鶴弥の工場で、建築関係者を対象とした工場見学会が行われました。

瓦の製造工程を間近で見学し、ショールームで製品や素材のバリエーションを体験するこの見学会。今回参加した建築家の方々は、瓦という素材にどのような発見を見出したのでしょうか。

伝統素材として知られる瓦ですが、その製造現場には最新の設備や高度な品質管理が導入されています。一方で、原料はあくまで土という自然素材。工業製品としての精度と、焼き物ならではの素材性が共存する現場でもあります。

今回は見学に参加した4名の方々に、印象に残った点や設計へのヒントについてお話を伺いました。

 御手洗龍さん

「瓦=伝統」というイメージが変わる、ハイテクな製造現場

工場に入ってまず感じたのは、ものづくりの現場としてのワクワク感でした。瓦というと伝統的な製品という印象を持っていましたが、実際の製造工程は想像以上にハイテクで、大量生産の仕組みには驚きと興奮がありました。

ショールームを見て印象的だったのは、瓦という素材でありながら、従来の瓦のイメージにとどまらない製品づくりが行われていることです。中空構造など、工業製品としての発想が取り入れられている点に意外性を感じました。

設計の観点では、瓦の色の使い方がとても興味深く感じられました。地域の環境に合わせて色を選ぶという考え方は魅力的で、暑い地域では白い瓦を使う、塩害のある地域では赤い瓦を使うなど、景観と機能を両立する設計のヒントになると感じました。

また、焼成前の瓦が想像以上に柔らかいことにも驚きました。さらに、割れた瓦をチップとして再利用するなど、製造過程の廃材を資源として活用する取り組みも印象に残りました。

武田清明さん

大量生産の精度と、素材の多様性が共存するプロダクト

トップシェアを持つメーカーの製造現場を見られる機会はそう多くありません。今回の見学で特に驚いたのは、大量生産でありながら品質のムラを出さないための精度の高さでした。瓦というプロダクトが、これほど厳密な品質管理のもとで作られていることに改めて驚かされました。

また、割れてしまった瓦を再利用する仕組みなど、素材を無駄にしない循環的な考え方も印象的でした。

設計事務所としてプロダクトづくりを志向する立場から見ると、長い歴史の中で培われてきた瓦メーカーの技術や役割の大きさを感じます。一方で、自分たちは自然素材の持つばらつきや個性を活かしたプロダクトの可能性も大切にしたいと考えています。資源はもともと均一ではなく、ばらばらな状態から始まるものです。その不均一さをどのように価値に変えていくかが、これからのテーマになるのではないかと感じました。

今回の見学は、瓦メーカーとのコラボレーションの可能性を考える良いきっかけにもなりました。

特に印象に残ったのは、新たに導入された小さな窯の存在です。均一な大量生産に加え、多品種少量生産の試作や実験的なプロダクトづくりができる環境が整えば、新しい世代や企業との協働も生まれていくのではないかと感じました。釉薬の配合を少し変えるだけでも多様な表情が生まれますし、むしろムラや偶然の変化が価値になる可能性もあります。大量生産と多品種少量生産の両方が並走する未来に期待しています。

田代彩子さん

瓦はもっと自由な素材になれる

乾燥や焼成の前段階の瓦を見せていただいた際、手で持つとぐにゃりと曲がるほど柔らかかったことが印象に残りました。その様子を見て、瓦が粘土という素材から生まれていることを改めて実感しました。

これまでオレンジや青の瓦は、スパニッシュ様式など洋風建築のためのものという印象を持っていました。しかし、窯変釉薬によって生まれる色の揺らぎや質感の変化を見ると、たとえ個性的な色の瓦でも釉薬による予期せぬ色調や質感の変化が加われば、深みが生まれ、屋根全体に豊かな表情を生み出すことができると感じました。瓦は和洋の枠にとらわれない自由な素材なのだと思います。

また、瓦のアップサイクルの可能性も興味深く感じました。細かく砕けば砂のような粒子になり、粗く砕けばシャモットのような骨材として使うことができます。左官仕上げの素材として取り入れるなど、新しい表現につながる可能性があると感じました。

日本の瓦屋根がつくる風景を愛する一人として、瓦が特別な高級素材ではなく、誰もが選べる身近な存在であり続けてほしいと思っています。製品だけでなく、瓦文化や技術を次世代につないでいく取り組みにも期待しています。

 正田智樹さん

「土と火」でつくられる素材の原点を見直す

印象に残ったのは、瓦の形状がつくられる工程でした。平板瓦(F形瓦)は、粘土を型で圧縮して形状を作る「プレス成形」によって作られており、屋根材として必要な精度の高い噛み合わせ形状や防災機能が、この工程によって生み出されていることを知りました。

また、瓦の原料が土であることを改めて認識しました。だからこそ、プロダクトの中にもっと「土らしさ」が表れてもよいのではないかとも感じました。

土や釉薬、焼き物という素材の性質を考えると、本来はムラや不均質さがあっても自然なものです。しかし現在の瓦は、均一な表現に整えられている部分も多く、そこに少し惜しさも感じます。もしムラや偶然の表情を意図的に取り入れられるようになれば、新しい需要につながる可能性もあるのではないでしょうか。

陶板についても興味深く感じました。鉄骨造への施工方法が確立され、押し出しの跡などの課題が改善されれば、さらに可能性が広がる素材だと思います。

瓦がこれからさらに普及していくためには、「瓦は土からできている」という原始的な視点をもう一度見直すことが重要だと感じました。瓦づくりの原始的な工程を辿ることが、新しい発想につながるのではないでしょうか。

 工場見学が開く、素材との新しい関係

今回の見学を通して見えてきたのは、瓦が単なる伝統建材ではなく、素材としてまだ多くの可能性を持っているということでした。

高度な品質管理による大量生産の技術と、土や火が生み出す素材の個性。その両方が共存する瓦というプロダクトは、建築やデザインの分野において新しい発想を生み出す余地をまだ多く残しています。

工場という「ものづくりの現場」を実際に訪れることで、素材の背景やプロセスへの理解が深まり、設計や表現のヒントが見えてくる。

今回の見学会は、瓦という素材を改めて見つめ直す機会となりました。

寄稿者
ヒトツチ編集部
ヒトツチ編集部
「ヒトツチ」は株式会社 鶴弥が運営するメディアです。古いと思われがちな瓦という建材について、現代の建築家たちがどのように感じ、どのような活用に取り組んでいるのか。寄稿、インタビュー、トークイベントなどの方法で、瓦についての様々な思考を広く共有していきたいと考えています。
「瓦の基礎知識」のカテゴリー内の記事は、瓦メーカー鶴弥と建築設計者の監修のもと制作されています。
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