三州瓦から始まる新たな文化と経済のエコシステムへの期待(石田樹/慶應義塾大学細谷浩美研究室)
三州瓦から始まる新たな文化と経済のエコシステムへの期待
「瓦」を頭に入れながら街を歩いてみると、以上に瓦屋根の建物が少ないことがわかる。神社仏閣や少し前に建てられた建物の屋根にしか、瓦はない。街のほとんどは、マンションやビルにあるようなフラットな屋根、金属屋根やスレート屋根であり、瓦に出くわすことは少ない。ただ、その機会が少なくなっている分、街で瓦屋根に出会うと、どこか重厚的で、異質な存在として目に映る。


神保町、東ティモールで撮影した建物は、どちらも独特な雰囲気を醸し出している。都心にはないような、その土地のオリジナリティが感じられるからではないだろうか。そして、そうした魅力を引き出す要素の一つが瓦なのではないか。瓦は地域性や土着性を強く持つものである。その歴史を辿ると、運搬技術が発達していなかった時代は、重量のある瓦を遠方へ運搬することが困難であったことから、国内各地域に瓦窯があり、その土地の素材、粘土で瓦が生産されていた。しかし現在は、全国に先駆けてトンネル窯の導入や量産体制の構築、全国供給を行なってきた三州(愛知県西三河地域)が国内の瓦生産の大部分を占めている。
この変化は合理的である一方で、かつて瓦が提供していた地域性や土着性が失われている側面もある。瓦を製造する中小企業は、需要の低下や燃料費の高騰、さらには後継者不足という三重苦に直面しており、技術を維持したくとも事業の存続そのものが危ぶまれ、実際に多くの窯元が廃業している現状がある。資本力のある大手企業がDX化によって効率的に利益を確保する一方で、小規模な窯元は採算が取れず、その地域固有の技法や素材が徐々に失われている。
そんな状況を打開する存在として、高いシェアを誇る三州の瓦に期待を寄せたい。三州瓦の主要企業が中心となり、全国の瓦メーカーを包括する「巨大な経営・生産プラットフォーム」が構築できれば、先述したような課題に直面する地方の窯元を救えるのではないだろうか。三州が培ってきた強固な資本力や効率的な経営・物流システムを全国の小規模な窯元に展開し、グループとして経営を合理化する。その上で、各地の窯元では土着性や技術を活かした「地域オリジナルブランド」を継続して守り抜くのである。
バックオフィスや管理システムといった「経営の基盤」は三州のスケールメリットを活かして効率化し、屋根を彩る「意匠と誇り」は各地の窯に委ねる。このように資本と文化を戦略的に分離・統合することで、日本の屋根に、そして建物が織りなす風景に、再び多様な地域の土着性を取り戻すことができる。その役を担えるのは、三州しかいない。これこそが、産業の持続可能性と文化の保全を両立させる、瓦業界の新たな未来像だ。

